“普段づかい”って、汚れていいモノ。使えば使うほど、馴染んでいくモノ。イラストレーター・福田利之さんが描く絵を

十布(テンプ)ディレクター滝口聡司さん

INTERVIEW #01

十布(テンプ)ディレクター滝口聡司さん

2018.8.10
関連キーワード :
“普段づかい”って、汚れていいモノ。
 使えば使うほど、馴染んでいくモノ。

イラストレーター・福田利之さんが描く絵を、暮らしに寄り添う様々なテキスタイルや布プロダクトにして発信している「十布(テンプ)」。ひとつ一つ、丁寧に作り上げられた“優しい”世界観に、多くの支持が集まっています。建築家でありながら、このブランドのプロデュースをされている滝口聡司さんに、ブランドに込めた思いや、“普段づかい”に対する考え方をお聞きしました。

01 届くべき人のところにちゃんと届けばいい
ー まずは、「十布(テンプ)」がスタートしたきっかけから教えていただけますか。

イラストレーターの福田利之と建築家の私が一緒にはじめた、様々な種類のテキスタイル、 布プロダクトを製作、発信するブランドです。

元々、私たちは友人関係にあって、以前から “何か一緒にやりたいね”と話しをしていましたが、“布モノをやりたい”と言い出したのは福田でした。彼はイラストレーターとして紙モノをたくさん製作する中で、紙の印刷物の“消費されていく”イメージとは違う、“もっと暮らしの中で使い続けてもらえるモノ”として、布製品を作りたいという思いがあったようです。使い倒されて、汚れていくものを作りたい、そんな話しを2人でしました。

私はそれを聞いた時に、彼が持っている“優しい”テイストと“暮らし”というキーワードは、すごくマッチすると思いました。とはいえ、ふたりとも、こういった布モノに関しては素人同然。彼がデザインをし、私がディレクターとして、二人で勉強をしながら、ものづくりを進めてきました。

ー どのような思いで、プロダクトを作ってこられたのでしょうか。

最初に手掛けた【tenp01】は、ガーゼをつかったシリーズで、ものすごく福田のイラストの良い部分を表現することができました。手ごたえも感じましたし、周囲の評判も上々でした。

では、次にどういったものをつくろうか?と考えたとき、今度は逆に福田らしくないものを作ってもらおう、彼のファンが、“あれ?福田さん、ちょっと変わった”“これ、福田さんなんですか?”って言われるようなものにしたいと考えました。

ディレクターの立場からしたら、これを機に、福田の今までにないクリエイティビティを引き出したいし、見たいわけです。そういった意図を反映しつつ、【tenp02】シリーズとして選択してチャレンジしたのが、福島県で伝統的に作られてきた刺子織でした。グリッドのような枠の中でデザインをしなくてはならないので、ものすごく制約があります。

また、【tenp05】では、インドのブロックプリントに挑戦しています。ブロックプリントって、一続きの印刷ではなく、いくつかの版を重ねていく手法なのですが、この商品を作る際には、4つの版を重ねながら、“どう連続させるのか?”を考える必要がありました。

結局、布というのは、生活に寄り添うというコンセプトを持ちながら、同時に作り手に制約を与えるものです。私は建築家ですが、建築はいわば“制約の塊”のような仕事で、お客様の要望や法規制など、様々な条件の中で回答を出してきました。

制約がなければ、結局、いつまでたっても自分の世界から抜け出してはいけないし、アイデアも生まれてはきません。制約はクリエイターを強くする要素のひとつです。

制約という側面からとらえると、ある意味、布というプロダクトも建築と同じような側面はありますが、大きく違うのは、こちらは受注生産ではないということ。私たちが作ったものが、売れる、売れないという結果から、しっかり評価されるという点になります。

でも、私たちは決して、売れるものを意識して作っているわけではありません。まずは福田が面白がってチャレンジできるか?そこを一番重要視しています。もちろん売れなくてもいいと考えているわけではありませんが、どんどん拡大してファストファッション化するようなことを目指すのではなく、“届くべき人のところにちゃんと届けばいい”と思っています。プロダクトありきでここまでやってきて、今では【tenp06】シリーズまで展開できたのは、届いているという実感として、嬉しいことですね。

02 定番になっていくために、ゆっくり一歩ずつ
ー 滝口さんが考える“普段づかい”の定義って、どのようなものでしょう。

普段使いって、汚れていっていいモノですね。大切な時だけ使うものでは、決してない。ハンカチであれば、常にポケットに入れておいて、ガンガン使ってもらわないといけません。だからこそ、なおさら使えば使うほど気持ち良いもの、好きになるもの、を普段づかいにしたいですね。

私たちが提案する【tenp01】シリーズのガーゼは、使えば使うほど柔らかくなります。布って、そうやって育って馴染んでいく。使えば使うほど、良いものになっていきます。良いものは大事に使いたくなる、そうやって長く使えるものがそばにあるのはいいように思います。

tenp01

ー デザインも重要な要素ですよね。

そうですね。自分が気に入っている良質なデザインって、言うなれば自己満足ですよね。「何でもいい」とおっしゃる人がいる一方で、「ちょっと良いもの」を持ちたいという人もいらっしゃいます。下着でもそうですけれど、例え人から見えなくても、自分を鼓舞させるために、自分の気持ちを高めるために良いものを身に着けたい、そういった思いが根底にあると思います。

そこって、私は豊かさにつながると思っていて。ちょっと大人になって、普通のハンカチより300円高いというのが贅沢かというと、そんなことはない気がします。そういった、ちょっとした豊かさを求めて喜んでくださる人たちに、私たちの商品をお届けしたいです。持っているだけで嬉しくなる、使っているだけで嬉しくなる、“好きなものと一緒にいる”という、そんな“小さな幸せ”を届けたいですね。

できれば、私たちのプロダクトが、長く愛されていく定番になっていってほしいとも思います。例えば、この【tenp01】シリーズのガーゼで育った子が、やがてお母さんになって、自分の子どものために使ってあげるとか。

そういう状態を作るためには、慌てても仕方がありません。ゆっくり一歩ずつ地道に良いものを作って、使ってくださる方を増やしたいですね。そんな思いでこれからも、モノづくりを続けていきます。

十布(https://tenp10.com/)
direction 滝口聡司

建築家。1997年、設計事務所「アパートメント(https://apartment.gr.jp/)」を設立。1998年料理創作ユニット「Goma」の立ち上げに携わる。2006年から2012年まで文具雑貨ブランド「水縞」を運営。2012年よりアジアのクリエイターとのコラボレーション企画「meets project in Asia」を主催し、バンコクとの交流を生かしたコーディネートや企画も手掛ける。2013年に株式会社テクトコを設立し、布ブランド「十布」を始動。2016年に「aprtment Mumbai」を設立し、インドでの設計活動をスタート。 2018年、プロジェクトスペースとブックレーベルの機能を併せ持つ「aptp」で出版事業も展開するなど、建築にとどまらずプロデューサーとして多方面で活動中。